ゼロからわかるサステナ実務③ ~S・Gってどう実務に落とす?サプライチェーンへの影響まで~

RIMM Japan
2026年9月10日
S(社会)・G(企業統治)の実務ポイントと、SSBJ基準・一般基準の考え方をやさしく解説します。ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つの観点や、大企業の開示対応が中小企業にどう波及するかも整理。ゼロからわかるサステナ実務シリーズ第3回です。
前回(第2回)は、GHG(温室効果ガス)排出量の基本(Scope 1・2・3)とSSBJ基準(サステナビリティ基準委員会が策定する日本のサステナビリティ開示基準)の全体像を整理しました。今回はS(社会)・G(企業統治)に焦点を当てます。「S・Gは社会貢献の話でしょう?」「うちは上場企業じゃないから開示制度と関係ない」――こうした認識を持つ方は少なくありません。本記事では、S・Gの実務ポイントを整理したうえで、SSBJ基準の一般基準の考え方と、大企業の開示対応がサプライチェーン上の中小企業にどう波及していくのかを解説します。
はじめに:S・Gは「社会貢献の話」だけではない
E(環境)はScope 1・2・3という数字で語れる分、比較的イメージしやすいテーマです。一方でS(社会)・G(企業統治)は、「人権配慮」「コンプライアンス」といった言葉が先行しがちで、何をどこまでやればよいのか掴みにくいという声をよく聞きます。
もう一つ見落とされがちなのが、SSBJ基準の直接の対象が主にプライム市場の大企業だとしても、実務上の影響がそこにとどまらないという点です。「自社は関係ない」という認識が、後になって思わぬ対応負荷につながることがあります。
課題:S・Gは抽象的に語られがちで、自分ごと化しにくい
S・Gについて社内や取引先と話すと、「社会貢献のためだけの話」と受け止められることがよくあります。しかし実際には、Sの面では人権配慮や労務管理が不十分だと採用競争力や取引継続に影響し、Gの面では責任所在が曖昧でデータ管理が不十分だと、開示要請や監査対応で大きな負荷が生じます。つまり、S・Gは経営リスクと事業機会の話でもあります。
さらに、「うちは上場企業ではないから関係ない」という認識も、実務上は注意が必要です。取引先の開示要請やサプライヤー評価、金融機関との対話を通じて、段階的に対応が求められる可能性があるためです。
解決策:S・Gの実務理解とSSBJ基準の波及構造を押さえる
S(社会)・G(企業統治)の実務理解
ESGのSは「人への責任」、Gは「会社経営の責任」と捉えると、社内外に伝わりやすくなります。
S(Social/社会)は、企業が従業員、顧客、取引先、地域社会など、さまざまな人とどう向き合っているかを見る観点です。労働安全、人権、多様性、働きやすさ、製品・サービスの安全性、個人情報保護、サプライチェーン上の人権配慮などが含まれます。Sへの対応が弱いと、優秀な人材の採用難、離職率の上昇、取引先からの懸念表明といった形で、企業価値や事業継続に影響が出る可能性があります。
G(Governance/企業統治)は、企業が適切で透明性のある意思決定を行い、責任ある経営を実現するための仕組みです。取締役会の監督機能、責任分担、内部統制、コンプライアンス、情報開示の正確性などが中心テーマです。Gが弱い企業では、不祥事発生時に経営責任が厳しく追及されやすく、経営への信頼低下につながります。GはEとSの取り組みを「ちゃんと動かす土台」といえます。
社内外に説明する際のひとことは、「Sは人や社会との向き合い方、Gはそれを正しく進めるための経営の仕組みです」です。

なぜ今、S・Gへの対応が必要なのか
S・Gは社会貢献のためだけの話ではなく、「企業が選ばれ続けるための条件」になりつつあります。人権配慮や労務管理が不十分だと採用や取引継続に影響し、責任所在やデータ管理が曖昧だと開示要請や監査対応の負荷が増えます。逆に言えば、早い段階で体制を整えておくことが、採用力・取引継続・資金調達といった複数の面でプラスに働く可能性があります。
SSBJ基準における S・G の位置づけ:一般基準とは
前回整理したとおり、SSBJ基準は適用基準・一般基準・気候基準の3つで構成されます。このうち、気候以外のサステナビリティ情報(S・Gを含む)を扱うのが一般基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第1号)です。
一般基準が求めているのは、単なる取り組み事例の紹介ではありません。気候基準と同じ4つの観点――ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標――で、企業が気候以外のサステナビリティ課題(人的資本、人権、地域社会との関係など)をどう認識し、どう管理し、どう開示するかが問われます。
ガバナンス:S・G関連の課題を誰がどのように監督・意思決定しているか
戦略:人権・人的資本などの課題が事業モデルや経営戦略にどう影響するか
リスク管理:S・G関連のリスク・機会をどう識別し、評価し、管理しているか
指標と目標:離職率、女性管理職比率、内部通報件数などをどう設定・モニタリングしているか

つまり、一般基準は「何を開示するか」だけでなく、「なぜその情報が重要で、どう管理されているか」を説明する基準です。開示対応は情報収集業務というより、経営管理そのものに近い性質を持っています。
なお、SSBJ基準に準拠していることを対外的に表明するには、適用基準・一般基準・気候基準のすべてに準拠する必要がある点は、前回お伝えしたとおりです。気候基準(排出量等)だけを整備しても、一般基準の対応が伴わなければ「SSBJ基準に準拠している」とは表明できません。
大企業からサプライチェーン中小企業への影響波及
制度の直接対象は主にプライム上場企業ですが、実務上の影響はそこにとどまりません。大企業が一般基準・気候基準に沿って開示を進めると、自社だけの情報では足りず、子会社やサプライヤーを含むサプライチェーン全体から情報を集める必要が出てきます。その結果、中小企業にも間接的な対応圧力が広がる可能性があります。
具体的には、次のような形で波及が起こりやすいと考えられます。
取引先からの情報提供要請の増加:人権、労務、統治体制、排出量、方針類の提出依頼が増える。未整備だと回答負荷が高く、取引評価に影響しやすい
回答精度への要求上昇:「ある・ない」ではなく、根拠資料や管理方法まで求められる。社内でデータ管理と責任者設定が必要になる
選別・調達基準の見直し:大企業がサプライヤー評価を厳格化する。対応できない企業は機会損失につながる可能性がある
金融面での波及:金融機関も取引先や投融資先のESG情報を重視しやすくなり、資金調達や説明責任にも影響が広がる

特に中小企業にとって大きいのは、自社が義務化対象でなくても、主要取引先の開示対応の一部として情報提供を求められる点です。これは環境領域だけでなく、S・Gでも同様です。人権方針の有無、労働安全衛生の管理、内部通報制度、責任者の設置状況など、これまで明文化していなかった事項が急に問われることがあります。
「うちは上場企業ではないから関係ない」という認識は、この意味で注意が必要です。取引先の開示要請、サプライヤー評価、金融機関との対話を通じて、段階的に対応が求められる可能性があるためです。
よくある疑問Q&A
Q. S・Gは、結局どこから手をつければよいですか? まずは自社の現状を棚卸しすることが第一歩です。人権方針の有無、労働安全衛生の管理状況、内部通報制度、取締役会の監督体制など、すでにある取り組みと不足している部分を整理すると、優先順位が見えやすくなります。
Q. 自社は非上場ですが、SSBJ基準対応は本当に関係ありますか? 制度上の直接対象でなくても、主要取引先や親会社がSSBJ基準対応を進める過程で、情報提供を求められる可能性があります。「求められてから対応する」のではなく、最低限の体制とデータ管理を早めに整えておくことが、取引維持の観点で重要です。
Q. コンプライアンス体制は、研修さえ行えば十分ですか? 研修も重要な要素ですが、それだけでは不十分です。問題が起きた際に迅速に対応できる仕組みや、個人任せにしないチェック体制・承認フローを社内に整えておくことが、不正やリスクを未然に防ぐうえで重要になります。
Q. S・Gの指標は、どこまで数値化する必要がありますか? 一般基準では指標と目標の開示が求められますが、最初からすべてを精緻に数値化する必要はありません。まずは離職率や女性管理職比率など、既存データから把握できる指標を整理し、段階的に精度を高めていく進め方が現実的です。
まとめ
Sは人や社会への責任、Gは責任ある経営の仕組みです。どちらも企業の信頼、採用、取引、資金調達に直結する重要テーマであり、一部の先進企業だけの話ではなくなりつつあります。
SSBJ基準の一般基準は、こうしたS・Gのサステナビリティ課題を、気候基準と同じ4つの観点(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標)で経営と開示にどう結びつけるかを問う基準です。そして、制度の直接対象が大企業であっても、実務上の影響はサプライチェーン全体に広がります。中小企業にとっても、今後は求められる前に最低限の体制とデータ管理を整えておくことが、取引維持と機会獲得の両面で重要になっていくと考えられます。
次回(第4回)では、気候分野に焦点を当て、TCFD・シナリオ分析とSSBJ基準の気候基準の関係を取り上げます。
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