top of page
< Back

いまさら聞けない有報のサステナ開示の書き方 ~第3回:指標・目標とGHG排出開示の実務~

RIMM Japan

2026年6月30日

SSBJ基準のコア・コンテンツ「指標及び目標」とGHG排出開示の書き方を、プライム下位・スタンダード企業の担当者向けに整理。Scope 1/2/3の基本、Scope 3の重要カテゴリーからの着手、初年度の経過措置の使い方、目標の3点セットを解説します。

「ガバナンスも戦略もなんとか形になってきたけれど、最後の『指標及び目標』、特にGHG(Greenhouse Gas/温室効果ガス)排出量のところで止まってしまう」——プライム下位やスタンダード市場のサステナビリティ推進・IR担当者から、こうした声をよく聞きます。 第1回で全体像と「作成方法について」を、第2回でガバナンス・戦略・リスク管理の3要素を整理してきました。シリーズ最終回となる第3回は、コア・コンテンツの4つ目「指標及び目標」を扱います。なかでも、多くの担当者がもっとも身構えるGHG排出量、とりわけScope 3の開示について、実務目線で考え方を整理します。 最初にお伝えしたい結論はこれまでと同じです。「指標及び目標」も、ゼロから新しく作るというより、すでに社内にある数字や目標を開示の形に整える作業に近い、ということです。CDP(旧Carbon Disclosure Project)への回答、温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づく報告、統合報告書やサステナビリティレポートで公表している中期目標——多くの企業が、すでに何らかの数字を持っています。第3回は、それらをSSBJ基準の枠組みにどう載せていくかを考えていきます。 そして、義務化のスケジュールについては第1回でも触れたとおりです。時価総額別に段階的な適用が見込まれていますが、上場企業においても大半の企業にとっては、いま一斉に動かなければ間に合うものではありません。本稿も「いつ自社の番が来てもいいように、考え方の輪郭をつかんでおく」というスタンスで進めます。


1. 「指標及び目標」は何を書く欄なのか

コア・コンテンツの4つ目「指標及び目標」は、サステナビリティ関連のリスクと機会への取り組みを、定量的に測り、進捗を示すための欄です。ガバナンス・戦略・リスク管理が「どう考え、どう向き合っているか」を語る部分だとすれば、指標及び目標は「その取り組みを、どの数字で測り、どこを目指しているか」を示す部分にあたります。

ここで押さえておきたいのは、指標及び目標が大きく2つの層に分かれることです。

ひとつは、気候関連の指標及び目標。これはSSBJのテーマ別基準である気候基準(IFRS S2に相当)が具体的に定めており、後述するGHG排出量はこの中心に位置します。

もうひとつは、気候以外のサステナビリティ関連の指標及び目標。人的資本、人権、生物多様性など、自社にとって重要なテーマについて、用いている指標と目標を開示します。こちらは一般基準が枠組みを定めています。

この二層構造は第1回でも触れましたが、指標及び目標の欄でも同じ構造がそのまま当てはまる、と整理しておくと迷いにくくなります。



2. GHG排出量開示の基本構造——Scope 1・2・3

気候関連の指標で中心となるのが、GHG排出量です。SSBJ基準では、温室効果ガスプロトコル(GHGプロトコル)に従い、排出量をScope 1・Scope 2・Scope 3の3区分で測定・開示することが求められます。

  • Scope 1: 自社が所有・支配する排出源からの直接排出(自社の燃料燃焼など)

  • Scope 2: 購入した電気・熱・蒸気などの使用に伴う間接排出

  • Scope 3: 上記以外の、バリューチェーン全体で発生する間接排出(原材料の調達、製品の使用・廃棄など、上流・下流の15カテゴリー)



Scope 1・2は、多くの企業がすでに温対法対応やCDP回答の過程で算定しているケースが少なくありません。一方で、担当者の手を止めるのはほぼ例外なくScope 3です。15カテゴリーにわたる算定は、自社だけで完結せず、取引先を巻き込んだデータ収集が必要になるため、負荷が大きいのは事実です。

ただし、ここで知っておきたいのが、SSBJ基準が用意している「実務に配慮した定め」です。

第一に、15カテゴリーすべてを必ず開示するわけではないという点です。SSBJ基準では、15のカテゴリーすべての関連性を検討することは求められますが、自社に関連しないと判断したカテゴリーまで無理に測定・開示する必要はない、と整理されています(気候基準 BC149 項)。まずは自社にとって重要性の高いカテゴリーを見極めるところから始められます。

第二に、測定にあたって用いたデータや仮定を開示することが求められます。1次データ(取引先固有の実データ)をどこまで使ったか、推定値をどう組み込んだか、といった「測り方の前提」を示すことで、完璧な精度を一度に求められるわけではない、という設計になっています。



3. 経過措置を知れば、初年度の負荷は下げられる

「Scope 3まで含めて初年度から完璧に出すのは無理だ」——その感覚は、実は基準の側も織り込んでいます。第1回で触れた経過措置のうち、指標及び目標に直結するものを改めて整理します。

SSBJ基準を適用する最初の年度については、経過措置として、

  • 前年度との比較情報を開示しないことができる

  • Scope 3排出量の開示を初年度はしないことができる

といった取り扱いが認められています。つまり、初年度はScope 1・2を中心に据え、Scope 3は翌年度以降に整えていく、という段階的なアプローチが制度上も可能だということです。

ただし、経過措置を適用する場合は「その旨」を開示する必要があります。「使わない」ことは選べますが、「黙って省略する」ことはできない、という点だけ押さえておきましょう。

このほか、義務化フェーズに入った企業向けには、最初の対象年度について、サステナビリティ開示を有報とは別に翌期の半期報告書の提出期限までに行える「二段階開示」の経過措置も検討・整理されています。いますぐ身構える必要はありませんが、「初年度には時間的な配慮がある」という大枠だけ知っておくと、将来の見通しが立てやすくなります。



4. 目標の書き方——「掲げている目標」を開示の言葉に翻訳する

指標とあわせて開示するのが「目標」です。ここでも出発点は、新しい目標を作ることではなく、すでに掲げている目標を開示の形に整えることです。

中期経営計画やサステナビリティ方針のなかで、「2030年までにCO2排出量を◯%削減」「女性管理職比率を◯%に」といった目標を掲げている企業は少なくありません。SSBJ基準では、こうした目標について、目標値だけでなく、その目標をどう設定したか、進捗をどの指標で測っているか、現時点の実績はどうか、といった点を含めて開示することが想定されています。

逆に言えば、すでに対外的に公表している目標があるなら、それを「設定の背景」「測定指標」「進捗」という切り口で整理し直すことが、目標開示の中心作業になります。



2. 実務TIPS

第3回では、指標及び目標とGHG排出開示でつまずきやすい4つの論点について、明日からできるアクションと書き方例を示します。書き方例の「◯」は、自社の実情に合わせて埋めてください。


TIPS 1: 既存の排出量データの「出どころ」を棚卸しする

つまずきポイント: 「GHG排出量を一から測定しないといけない」と思い込み、着手が遅れる。

アクション: まず、社内にすでにある排出量データを棚卸しします。温対法報告、CDP回答、自治体提出資料、過去の統合報告書——どこかに数字が眠っていることが多いものです。「どの数字が、いつ時点の、どの範囲のものか」を一覧にするだけで、開示の出発点が見えてきます。


書き方例:

当社のScope 1及びScope 2の温室効果ガス排出量は、温室効果ガスプロトコルに準拠して算定しており、対象範囲は◯(連結/単体等)、報告期間は◯年◯月から◯年◯月までです。

TIPS 2: Scope 3は「全部」ではなく「重要なカテゴリーから」

つまずきポイント: Scope 3の15カテゴリーをすべて埋めようとして、データ収集が止まる。

アクション: 15カテゴリーの関連性を一度すべて検討したうえで、自社にとって重要性の高いカテゴリー(製造業ならカテゴリー1「購入した製品・サービス」など)から着手します。関連性が低いと判断したカテゴリーは、その判断自体を記録しておくと、開示時の説明に使えます。


書き方例:

Scope 3排出量については、当社のバリューチェーンにおける重要性を考慮し、カテゴリー◯及びカテゴリー◯を主要な算定対象としています。その他のカテゴリーについては、◯(事業との関連性が限定的である等)と判断しています。

TIPS 3: 初年度は経過措置の「使い方」を先に決めておく

つまずきポイント: 経過措置を使えることを知らず、初年度から全項目を抱え込む。あるいは使ったのに「その旨」の記載を忘れる。

アクション: 自社が任意適用・義務適用のどちらに進むにせよ、初年度に比較情報・Scope 3の経過措置を使うかどうかを早めに方針として仮置きします。使う場合は「その旨を開示する」という一文をテンプレートに組み込んでおくと、記載漏れを防げます。


書き方例:

当事業年度は当該基準の適用初年度であるため、経過措置を適用し、Scope 3温室効果ガス排出量及び前年度との比較情報の開示を行っておりません。

TIPS 4: 目標は「設定根拠・指標・進捗」の3点セットで整える

つまずきポイント: 目標値だけを書いて、「どう測っているか」「いまどこか」が抜ける。

アクション: すでに公表している削減目標や人的資本目標について、「①どんな根拠・前提で設定したか」「②何という指標で測っているか」「③現時点の実績」の3点を並べて整理します。3点がそろうと、投資家が読んだときに進捗を追える開示になります。


書き方例:

当社は、社内のエネルギー削減計画を踏まえて、◯年度を基準年として、◯年度までに温室効果ガス排出量(Scope 1及び2)を◯%削減することを目標としています。当事業年度の実績は◯tCO2eであり、基準年比◯%の◯(増加/減少)となりました。

3. まとめ

3回シリーズを通じてお伝えしてきたのは、有報のサステナビリティ開示は「新しく何かを生み出す作業」ではなく、「すでに社内にあるものを、開示の枠組みに整え直す作業」に近い、という一貫したメッセージでした。

  • 第1回: 全体像と「作成方法について」——制度の構造と経過措置を押さえる

  • 第2回: ガバナンス・戦略・リスク管理——既存の社内資産と接続する

  • 第3回: 指標及び目標——すでにある数字と目標を、開示の言葉に翻訳する

GHG排出量、とりわけScope 3は確かに負荷の大きい領域です。ですが、SSBJ基準には「重要なカテゴリーから」「初年度は経過措置で」といった、実務に配慮した余地が用意されています。完璧な開示を一度に目指すのではなく、いま手元にある数字から、できるところを着実に整えていく。それが、いざ自社の番が来たときに、慌てずに動ける一番の準備になります。

3回シリーズはここで一区切りです。みなさんの会社の「最初の一歩」が、少しでも軽くなっていれば嬉しく思います。



なお、SSBJ基準・開示府令・適用時期等の最新情報は、SSBJ公式サイトおよび金融庁の「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」で適宜ご確認ください。

また、GHG排出量の測定方法・スコープの区分・カテゴリーの考え方は、SSBJ気候基準およびGHGプロトコルの定めによります。具体的な算定にあたっては最新の基準・ガイダンスで要確認をお願いします。



お問い合わせ

株式会社RIMM Japan

https://www.rimm-japan.com/contact


bottom of page