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ゼロからわかるサステナ実務② ~Scope 1・2・3ってどう違う?GHG排出量とSSBJ基準の基本整理~

RIMM Japan

2026年8月21日

Scope 1・2・3の違いとSSBJ基準の全体像を、初心者にもわかるようにやさしく整理しました。ISSBやIFRS S1・S2との関係、2026年2月の開示府令改正による義務化スケジュール、実務で起こりやすい課題まで解説。入門シリーズ第2回です。

ESGの全体像がつかめてくると、次にぶつかるのが「Scope 1・2・3って結局何が違うの?」「SSBJって聞くけど、何のための基準なの?」という疑問です。本記事では、温室効果ガス(GHG)排出量の基本的な分類であるScope 1・2・3の考え方と、日本のサステナビリティ開示基準であるSSBJ基準の全体像を、社内の関係部署や経営層に説明できるレベルまでやさしく整理します。

はじめに:「排出量の話」と「開示基準の話」は別物

サステナビリティ実務を進めていくと、避けて通れないのが温室効果ガス排出量の把握です。そしてほぼ同じタイミングで、「SSBJ(サステナビリティ基準委員会)」という言葉にも出会うことになります。

ここで混乱しやすいのが、この2つが別レイヤーの話だという点です。

  • Scope 1・2・3:排出量そのものを、どこで・誰の活動によって発生したかで分類する考え方

  • SSBJ基準:こうした情報を含むサステナビリティ情報を、日本の制度に沿ってどう開示するかを定める基準

両者の関係を最初に整理しておくと、その後の理解がぐっとスムーズになります。



課題:用語が先行し、実務の全体像が見えにくい

「Scope 2も自社が使っている電気なのに、なぜ間接排出になるのか」「SSBJとISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、IFRS(国際財務報告基準)は何が違うのか」といった疑問は、初めて学ぶ方がつまずきやすいポイントです。用語を個別に覚えようとすると、かえって全体像が見えにくくなります。

大切なのは、実務の流れを大きく3段階で捉えることです。

  1. まず排出量を把握する:Scope 1・2・3を整理する

  2. 次に開示基準を理解する:SSBJ基準が何を求めるかを把握する

  3. 最後に対応方法を考える:収集・算定・開示をどう効率化するかを決める


解決策:Scope 1・2・3とSSBJ基準を順番に理解する

Scope 1・2・3とは何か

Scope 1・2・3は、企業に関係する温室効果ガス排出量を、どこで・誰の活動によって発生したかで分類する考え方です。国際的な算定基準であるGHGプロトコル(温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準)にもとづく分類で、SSBJ基準の気候基準でもこの考え方が採用されています。

  • Scope 1(自社の直接排出):自社が直接排出する温室効果ガス。工場での燃料燃焼、営業車のガソリン使用など

  • Scope 2(エネルギー起源の間接排出):他社から供給されたエネルギーの使用に伴う間接排出。購入した電気、ガス、蒸気の使用に伴う排出

  • Scope 3(その他の間接排出):Scope 1・2以外の間接排出。仕入先での製造、物流、出張、通勤、販売後の製品使用・廃棄、投資先排出など

覚え方のコツ

  • Scope 1 = 自社から直接出る

  • Scope 2 = 買ったエネルギー経由で出る

  • Scope 3 = それ以外で自社の事業に関連して出る

Scope 2でつまずきやすいのが、「自社が使っている電気なのに、なぜ直接排出ではないのか」という点です。ここでは「排出そのものがどこで起きたか」で考えると整理しやすくなります。自社が電気を使っていても、実際に発電時の排出が起きるのは発電所です。そのためScope 2は間接排出に分類されます。


Scope 3はなぜ難しいのか

Scope 3は、サプライチェーン全体や製品ライフサイクル全体に関わるため、最も範囲が広く、実務でも難易度が高い領域です。Scope 3には15のカテゴリがあり、大きく上流(自社に入ってくるまでの過程で発生する排出:購入した製品・サービス、出張、通勤など)と下流(販売後や投資先など、自社の先で発生する排出:販売した製品の使用・廃棄、投資など)に分かれます。輸送・配送は、自社が費用を負担する分は上流、販売後の製品の配送は下流というように、両方にまたがって存在します。

重要性が高くなりやすいカテゴリは業種によって大きく変わります。たとえば製造業では原材料や物流、電機・自動車では販売後の製品使用、不動産では建設や賃貸資産、金融では投資先排出の重要性が高くなりやすい傾向があります。自社にとってどこが重要かを見極めることが、Scope 3対応の最初の一歩です。



よくある疑問Q&A

Q. なぜScope 1・2・3を分けて考える必要があるのですか? 排出の発生源によって、管理方法も削減方法も違うからです。Scope 1は自社設備や車両の改善、Scope 2は再エネ調達や省エネ、Scope 3はサプライヤー連携や製品設計の見直しが重要になります。分けて考えることで、打ち手が具体的になります。

Q. なぜScope 3(サプライチェーン排出)まで見る必要があるのですか? 自社の事業活動に関連する排出であり、企業の実質的な環境負荷を示すからです。業種によってはScope 1・2よりScope 3の方がはるかに大きいこともあります。投資家や取引先も、企業をサプライチェーン全体で見ています。

Q. 排出量はどうやって算定するのですか?難しくないですか? 多くの場合、使用量データや契約情報をもとに、GHGプロトコルの考え方に沿って算定します。考え方自体は比較的整理しやすいですが、拠点ごとのデータ収集、排出係数の選定、年度間の整合などで実務負荷が発生しやすい部分です。

Q. Scope 3の15カテゴリすべてに一度に対応する必要がありますか? 重要性の高いカテゴリから優先して取り組むことが現実的です。まずは自社にとって影響の大きいカテゴリを見極め、データ収集の可能性も踏まえて段階的に整備する考え方がよく取られます。

Q. 自社が義務化対象でなくても、Scope 3対応は必要になりますか? 可能性はあります。義務化の対象がすぐでなくても、取引先や親会社からデータ提供を求められる場面が増えることが想定されます。特にサプライチェーンの一部として、Scope 3データの提出を求められることがあります。


SSBJ基準の全体像とIFRS・ISSBとの関係

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)は、日本におけるサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を策定する組織です。国際的には、IFRS財団の下にあるISSBがサステナビリティ開示基準を策定しており、日本ではその流れを踏まえてSSBJ基準が整備されています。

関係をシンプルに整理すると、次のようになります。

  • IFRS財団:国際的な会計・サステナビリティ基準の全体を統括する組織。IASB(国際会計基準審議会)とISSBを傘下に持つ

  • IASB:IFRS会計基準を策定する機関。財務報告の国際基準を担当

  • ISSB:サステナビリティ開示基準を策定する機関。「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(IFRS S1)と「気候関連開示」(IFRS S2)を公表

  • SSBJ基準:日本向けのサステナビリティ開示基準。次の3つで構成される

    • 適用基準(サステナビリティ開示ユニバーサル基準):開示の場所、報告のタイミングなど、開示全般に関わる基本ルールを定める

    • 一般基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第1号):気候関連以外のサステナビリティ情報について、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標を定める

    • 気候基準(サステナビリティ開示テーマ別基準第2号):気候関連のリスク・機会に関する開示を定める

初心者向けには、「適用基準と一般基準がIFRS S1に、気候基準がIFRS S2に、それぞれおおむね対応する」と捉えると理解しやすくなります。ただし公式に1対1で対応づけられているわけではなく、日本の制度に合わせて整備されたものです。SSBJ基準の名称にはS1・S2という呼称はない点に注意してください。



SSBJ基準で何が求められるのか

SSBJ基準は単なる環境データの提出ではなく、企業がサステナビリティ関連のリスクと機会をどう認識し、どう管理し、どう開示するかを求めるものです。特に気候基準では、排出量の把握だけでなく、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標といった観点が重要になります(この4つの観点については、シリーズ第3回・第4回で詳しく取り上げます)。

つまり、Scope 1・2・3は「開示する中身の一部」であり、SSBJ基準は「それをどの考え方で、どの粒度で、どう説明するか」を含む、より大きな枠組みです。

なお、SSBJ基準に準拠していることを対外的に表明する場合は、適用基準・一般基準・気候基準のすべてに準拠する必要があります。一部の基準だけを参照した場合は「SSBJ基準に準拠している」とは表明できない点にも注意が必要です。


義務化スケジュールと実務への影響

SSBJ基準に沿った開示は、2026年2月の内閣府令(開示府令)改正により、東京証券取引所プライム市場に上場する一定規模以上の企業を対象として義務化されました。対象の判定には、直近5事業年度末の平均時価総額が用いられます。

  • 2027年3月期から:平均時価総額3兆円以上

  • 2028年3月期から:平均時価総額1兆円以上3兆円未満

  • 2029年3月期から(予定):平均時価総額5,000億円以上1兆円未満 ※金融審議会ワーキング・グループ報告で示された段階で、2026年時点の改正開示府令にはまだ反映されていません

  • 平均時価総額5,000億円未満:今後検討

義務化対象年度の開始から一定期間は、有価証券報告書には気候基準に沿った記載を行わず、翌期の半期報告書の提出期限までに訂正報告書で開示する「二段階開示」も認められています。

義務化の直接の対象はプライム市場上場企業ですが、スタンダード市場やグロース市場、非上場企業にも影響が及びます。気候基準がサプライチェーン全体を含む排出量の開示を求めるため、取引先として大企業からデータ提供を依頼される場面が想定されるためです。自社が直ちに義務化対象でなくても、影響は無関係ではありません。

※上記は本記事作成時点(2026年8月)の整理です。適用時期・対象範囲は今後の府令改正で変わる可能性がありますので、金融庁およびSSBJの最新の公式情報源で必ずご確認ください。



実務で起こりやすい課題

  • 拠点ごとにデータ形式がばらばら

  • 子会社や海外拠点の集計に時間がかかる

  • どの基準に沿って開示すべきか判断しづらい

  • 毎年の基準更新に追随するのが大変

  • 有価証券報告書向けのドラフト化に工数がかかる

これらの課題は、多くの企業が最初に感じる共通のハードルです。まずは自社の現状を整理し、優先度の高いところから着手することが現実的な進め方といえます。データ収集や管理を効率化するツールの活用も、選択肢のひとつです。


まとめ

Scope 1・2・3は、企業に関係する排出量を整理する基本的な考え方です。Scope 1は自社の直接排出、Scope 2は購入エネルギー由来の間接排出、Scope 3はそれ以外のサプライチェーン全体に関わる間接排出です。特にScope 3は範囲が広く、実務でも重要かつ難しい領域です。

一方SSBJ基準は、こうした情報を含むサステナビリティ情報を、日本の制度に沿ってどう開示するかを定める基準です。適用基準・一般基準・気候基準の3つで構成され、国際的にはIFRS財団のもとでISSBが定めるIFRS S1・S2の流れと整合しながら日本版として整備されています。

次回(第3回)では、S(社会)・G(企業統治)の実務理解と、SSBJ基準の適用基準・一般基準がサプライチェーン上の中小企業にどう波及するかを取り上げます。



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