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いまさら聞けない有報のサステナ開示の書き方 ~第2回:ガバナンス・戦略・リスク管理の記載ポイント~

RIMM Japan

2026年6月18日

SSBJ基準のコア・コンテンツ「ガバナンス・戦略・リスク管理」は、新規作成ではなく既存資産の整理。専門委員会がなくても、ERMがサステナ専用でなくても書ける。中期経営計画との整合、シナリオ分析の更新サイクル等、実務目線で解説します。

「サステナビリティ専門の委員会を新設しないと、SSBJ基準のガバナンス開示は書けないのでは」「中期経営計画は3年で回しているけど、戦略の『短期・中期・長期』はどう定義すればいいのか」「気候関連のシナリオ分析って、毎期更新しないといけないんですか?」——第2回でテーマにする「ガバナンス・戦略・リスク管理」については、こうした実務面での不安をよく聞きます。 第1回でお話したとおり、SSBJ基準は「最初から完璧な開示」を求めているわけではありません。むしろ、コア・コンテンツの中でも「ガバナンス・戦略・リスク管理」の3要素は、新しく何かを作るというより、既にある社内の取組や規程を、開示の形に整える作業に近いものです。サステナ専門の委員会がなくても、リスク管理規程がサステナ専用に分かれていなくても、出発点はある——これが第2回の通底するメッセージです。 本記事では、3要素それぞれの開示要求を整理した上で、「既存の社内資産をどう活かすか」という視点で実務TIPSを組み立てています。

1. 3要素は「新規作成」ではなく「既存資産の整理」

まず全体観から入ります。SSBJ基準のコア・コンテンツ4要素のうち、第2回で扱う3要素(ガバナンス・戦略・リスク管理)は、多くの企業がすでに何らかの形で社内に持っている取組と接続できます。

開示要素ごとに、接続できる既存社内資産を整理したのが図1です。


図1: SSBJの開示要求と既存社内資産の対応マップ


これらは「サステナビリティ専用」に作り直す必要はありません。既存の取組をSSBJ基準の言葉で表現し直すところから始められます。実際、作成要領も随所で「各社の状況に応じて柔軟に開示を行うことが考えられます」と明記しています。


2. ガバナンスの記載 — 専門委員会がなくても書ける

開示目的と求められる内容

ガバナンスに関する開示の目的は、「サステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリングし、管理し、監督するために企業が用いるガバナンスのプロセス、統制及び手続を理解できるようにすること」(一般基準第8項、気候基準第9項)です。

具体的に開示が求められるのは次の項目です(一般基準第9項、気候基準第10項)。

  • 監督に責任を負うガバナンス機関の名称または個人の役職名

  • リスク・機会に関する責任が、機関や個人にどう反映されているか

  • 適切なスキル・コンピテンシーの判断方法

  • 情報の入手頻度と方法

  • 戦略・主要な意思決定・リスク管理プロセスを監督する際の考慮事項

  • 目標設定の監督とモニタリング(報酬への組み込みを含む)

「専門委員会必須」ではない

ここで多い誤解が、「サステナビリティ専門委員会を設置しないとガバナンス開示は書けない」というものです。実際には、取締役会やリスク管理委員会、経営会議のいずれかでサステナビリティ関連の議論が行われていれば、それが出発点になります。


書き方例(サステナビリティ専門委員会がある場合、作成要領19頁を参考):

当社グループでは、取締役会の下に設置するサステナビリティ委員会が、グループ全体のサステナビリティ関連のリスク及び機会を監督する責任を負っている。同委員会は、年◯回開催され、その内容は取締役会に報告されている。

書き方例(専門委員会がなく取締役会が直接監督する場合):

当社グループでは、取締役会が、グループ全体のサステナビリティ関連のリスク及び機会を監督する責任を負っている。具体的な議論は、年◯回開催される取締役会において、◯◯担当役員からの報告を起点に行われている。

統合開示で繰り返しを避ける

SSBJ基準は「気候関連」と「気候以外」の二層構造になっていますが、ガバナンスの監督が統合的に行われている場合は、サステナビリティ全体として統合された開示を提供することで、不必要な繰り返しを避けられます(適用基準第31項(2))。

つまり、気候関連について別個のセクションを設ける必要は必ずしもなく、「サステナビリティ関連のリスク及び機会全般を取締役会が監督している」と書いた上で、特定のテーマ(気候関連等)について追加の記述を加える、という構成が認められています。

3. 戦略の記載 — 「短期・中期・長期」は自社で決めてよい

5つの開示項目

戦略に関する開示は、コア・コンテンツの中でも最もボリュームが大きい部分です。次の5項目を、識別したリスク・機会のそれぞれについて開示します(一般基準第12項、気候基準第14項)。

  1. リスク及び機会の識別

  2. ビジネスモデル及びバリューチェーンへの影響

  3. 財務的影響(現在および予想)

  4. 戦略及び意思決定への影響(気候関連は移行計画を含む)

  5. レジリエンス(気候関連は気候レジリエンスとしてシナリオ分析が必須)

「短期・中期・長期」は自社の計画期間と整合させる

戦略開示で最初に決める必要があるのが、「短期・中期・長期」の自社定義です。SSBJ基準は具体的な年数を指定していません(一般基準第12項(3))。企業ごとに、戦略的意思決定に用いる計画期間との関係で定義することが求められます。


書き方例(作成要領27頁を参考):

当社グループは、これらのリスク及び機会の影響が生じると合理的に見込み得る時間軸について、「短期」を3年以内、「中期」を3年超10年以内、「長期」を10年超と定義している。これは、当社グループの中期経営計画の期間及び長期ビジョンの対象期間と整合している。

「正解」があるわけではなく、自社の経営計画サイクルと整合していれば問題ありません。中期経営計画が3年単位の会社、5年単位の会社、それぞれの実態に合わせて定義します。

気候レジリエンスのシナリオ分析は毎期更新不要

戦略のレジリエンス開示では、気候関連についてのみ「シナリオ分析が必須」とされています(気候基準第30項)。ここで多い誤解が、「シナリオ分析を毎期実施しないといけない」というものです。


実際の規定は次のとおりです:

気候関連のシナリオ分析は、最低限、戦略計画サイクルに沿って更新しなければならないが、報告期間ごとに実施する必要はない。気候レジリエンスの評価は、報告期間ごとに実施しなければならない。(気候基準第30項)

つまり、シナリオ分析自体は中期経営計画の更新サイクルに合わせて数年に一度実施すれば足り、毎期実施する必要があるのは「レジリエンスの評価」のみです。 例えば、気候関連の規制・法改正やエネルギー価格の大幅変動、業界の動向といった外部環境の変化、また主要拠点・サプライチェーンの変化や前回分析時からの財務状況における大きな変化を評価するということです。 すでにTCFDに基づくシナリオ分析を行っている企業であれば、そのまま流用できます。


移行計画があれば内容を開示

気候関連で「移行計画」を策定している場合は、その内容も開示対象になります(気候基準第29項(3))。これには、移行計画の作成に用いた主要な仮定、計画を実現するうえで不可欠な要因・条件が含まれます。

ただし、これは「移行計画がある場合」の話で、新たに策定する義務はありません。


図2: 戦略開示の5項目と必須/任意の整理


4. リスク管理の記載 — 既存プロセスとの統合度合いを書く

開示目的と求められる内容

リスク管理に関する開示の目的は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を「識別・評価・優先順位付け・モニタリングするプロセス」を理解できるようにすることです(一般基準第28項、気候基準第40項)。

開示が求められるのは次の項目です(一般基準第29項、気候基準第41項)。

  • リスクの識別・評価・優先順位付け・モニタリングに用いるプロセスと関連方針

  • 機会の識別・評価・優先順位付け・モニタリングに用いるプロセス

  • 上記のプロセスが「全体的なリスク管理プロセス」に統合され、用いられている程度

「サステナ専用プロセス」を作る必要はない

ここでの実務上の重要ポイントは、「サステナビリティ関連のリスクを別個のプロセスで管理しなければならない」という規定ではないということです。むしろSSBJ基準は、既存の全社的リスク管理(ERM / Enterprise Risk Management)プロセスとどう統合されているか、その統合度合いを開示することを求めています。


書き方例(作成要領39頁を参考):

当社グループは、サステナビリティ関連のリスクを、当社グループの全社的リスク管理(ERM)プロセスの一部として識別・評価・モニタリングしている。リスクの優先順位付けにあたっては、財務的影響の大きさと発生可能性に加え、サステナビリティ関連の特性(時間軸の長期性、不確実性等)を考慮している。

すでにERMプロセスを持っている企業であれば、

  • 各部署から年1回リスクを吸い上げて一覧表にまとめている

  • 取締役会・経営会議に定期的にリスク報告をしている

  • リスク管理規程や内部統制規程がある

などの社内プロセスがすでに存在しているところが少なくありません。 そこへ、サステナ関連リスクをどう組み込むかを言語化することから始められます。

5. つながりのある情報を意識する

3要素の開示を書くときに、もう一つ意識しておきたいのが「つながりのある情報」の提供です(適用基準第31項)。

これには3つの観点があります。

  1. 開示の間のつながり: ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の各セクションが、相互に矛盾しないこと

  2. 不必要な繰り返しの回避: 共通する情報項目は統合して書く

  3. 財務諸表との重大な差異の開示: サステナビリティ関連財務開示で用いたデータ・仮定と、財務諸表のそれとの間に重大な差異がある場合、その情報を開示する


特に3つ目の「財務諸表との重大な差異」は、経理部門との擦り合わせが必要な論点です。例えば、減損や引当金の評価に気候関連リスクをどう織り込んでいるか、サステナビリティ開示で語る「将来予測」と財務諸表の「会計上の見積り」との整合性などを、開示前に確認する必要があります。

差異がなければ「重大な差異なし」と整理すればよく、すべての項目で差異を発見する必要はありません。

6. 実務TIPS: 既存資産を活かす5つのアクション

「ガバナンス・戦略・リスク管理を、サステナ専用に新規で作る必要はない」と分かっていても、具体的に何から手をつけるべきか——よくいただく質問への回答として、5つのアクションを整理します。

TIPS 1: ガバナンス機関を特定する

社内のどの機関がサステナ関連リスク・機会を実質的に監督しているかを、まず明確にします。「サステナビリティ委員会」という名称の専門機関がなくても、取締役会・経営会議・リスク管理委員会のいずれかで議論されていれば、それが出発点です。


書き方例(専門委員会がある場合、作成要領19頁を参考):

当社グループでは、取締役会の下に設置するサステナビリティ委員会が、グループ全体のサステナビリティ関連のリスク及び機会を監督する責任を負っている。

書き方例(専門委員会がない場合):

当社グループでは、取締役会が、グループ全体のサステナビリティ関連のリスク及び機会を監督する責任を負っている。

TIPS 2: 「短期・中期・長期」を中期経営計画と整合させる

時間軸の自社定義は、中期経営計画の期間と揃えるのが最も自然です。3年計画なら短期=3年以内、5年計画なら短期=5年以内、というように。


書き方例(作成要領27頁を参考):

当社グループは、「短期」を3年以内、「中期」を3年超10年以内、「長期」を10年超と定義している。これは、当社グループの中期経営計画の期間及び長期ビジョンの対象期間と整合している。

TIPS 3: シナリオ分析の更新サイクルを「戦略計画サイクル」に合わせる

気候関連のシナリオ分析は毎期更新する必要はありません(気候基準第30項)。中期経営計画の見直しに合わせて数年に一度実施すれば足ります。既にTCFD対応でシナリオ分析を行っている企業は、その成果を活かせます。


書き方例(作成要領33頁の趣旨を簡略化):

当社グループは、◯年に実施した気候関連のシナリオ分析の結果を踏まえ、報告期間ごとに気候レジリエンスの評価を行っている。シナリオ分析自体は、当社グループの中期経営計画の更新サイクル(◯年ごと)に合わせて更新している。

TIPS 4: リスク管理は「ERMとの統合度合い」を書く

サステナ関連リスクをERMから切り離して管理する必要はありません。むしろ、既存のERMプロセスの中でどう扱っているかを記述することが、SSBJ基準の求める情報そのものです。


書き方例(作成要領39頁を参考に簡略化):

当社グループは、サステナビリティ関連のリスクを、当社グループの全社的リスク管理(ERM)プロセスの一部として識別・評価・モニタリングしている。

TIPS 5: 財務諸表とのデータ・仮定の重大な差異を経理と擦り合わせる

サステナビリティ関連財務開示で用いたデータ・仮定と、財務諸表のそれとの間に重大な差異がある場合は開示が必要です(適用基準第31項(3))。

ただし、差異がない場合は「重大な差異なし」と整理すればよいだけで、無理に差異を発見する必要はありません。経理部門と早めに対話の場を持ち、「ここに差異がありそう」「ここは整合している」を一通り確認しておくと、開示作成のスピードが上がります。

7. まとめと第3回予告

第2回では、コア・コンテンツのうち「ガバナンス・戦略・リスク管理」の3要素について、開示要求と既存社内資産の接続を整理しました。3要素はいずれも「新規作成」ではなく「既存資産の整理」が出発点になることがお分かりいただけたかと思います。専門委員会がなくても、サステナ専用のリスク管理プロセスがなくても、書ける——これがSSBJ基準の柔軟性です。

第3回は、コア・コンテンツの最後にあたる「指標及び目標」を扱います。ここは実務負荷が最も大きいパートですが、Scope 3とファイナンスド・エミッションには経過措置がありますし、Scope 1・Scope 2の算定をすでに行っている企業であれば、そこから整理を始められます。「優先順位の付け方」を中心に、無理なく始められる順序を解説していきます。



なお、SSBJ基準・開示府令・適用時期等の最新情報は、SSBJ公式サイトおよび金融庁の「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」で適宜ご確認ください。


お問い合わせ

株式会社RIMM Japan https://www.rimm-japan.com/contact


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